これからの薬剤師像

Interview

健康サポート薬剤師 細野美佐子先生

―プロフィール―
健康サポート薬剤師・日本心理学会認定心理士
NESTA パーソナルフィットネストレーナー
一般社団法人 日本漢方協会 学術委員

「どちらかを選ばなくていい。諦めなくていい」母として、薬剤師として、一人の女性として輝き続ける細野さんの生き方とは?(記者/北城)

健康サポート薬剤師 細野美佐子先生インタビュー(記者/北城)

ある日、一本の電話が…。薬剤師のスカウトの電話だった。

  • ご入社されるまでの経緯を伺ってもよろしいですか?
  • 入社しましたのは、1990年ですね。
  • すごい。年数をはっきり覚えていらっしゃるんですね。
  • これだけは得意なんです(笑)。平成2年のことでしたね。
    お声をいただいたのは、平成元年の秋頃でした。
    平成元年の秋頃、先代の上坂一さんという方から突然お電話いただいたんです。
    学校の卒業名簿というのがあって、面識のない人の電話番号もわかっちゃったんですよね。
    「岐阜の同じ大学の同じサークルの出身で、しかも埼玉県に住んでいる人がいるじゃないか! 良かったらちょっと働かないですか?」と。
  • ものすごいご縁ですね。
  • 年齢の関係で在学時期はかぶらなかったものの、お電話でお誘いいただいて「それなら」ということでウエサカ薬局へ入りました。

普段の業務は人事・採用・教育と自由診療の漢方相談と調剤業務が3分の1ずつ、公休日に学校薬剤師地域ケア会議などの公的な仕事

  • 細野さんは薬剤師さんとしてどんなお仕事をされていますか?
  • 全体の業務の3分の1は、人材開発部部長としての業務。社内人事、採用、教育です。
    次の3分の1は、くすりのウエサカでやっているような自由診療と処方箋の保険調剤です。
    くすりのウエサカでは漢方相談をしながら患者さんの健康を応援しています。
    3つ目は薬局の外での、会議などのお仕事です。公休日に公的な仕事をしており、今日は地域ケア会議に出席してきました。地域ケア会議には蓮田市薬剤師会役員として参加しています。
    3つ目の中で地域ケア会議だけでなく、学校薬剤師としての活動や、NPOの活動もしています。

キャリアと子育てを両立できたのは、ウエサカ薬局の柔軟さのおかげ

  • 細野さんはご入社されてからどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか?
  • 子育てをまずちゃんとする。ということを考えながらキャリアを重ねてきました。子育てをちゃんとするということが私の一大目標だったのです。
    とにかく子供に割く時間が必要だったので、ウエサカ薬局の勤務体制がなければ実現不可能でしたね。
    二代目の方が女性だったということも大きかったです。どうしても、こればかりは男性にはわからないということがあります。二代目の上坂正美さんという女性は、同性の心を打つような魅力、良さをたくさん持っている方でした。
    私には子供が二人おりますが、それらのバックアップのおかげで自分が授けたいと思う教育を子供にしっかりでき、「子供を地球市民にしたい」という目標を叶えることができました。
  • 地球市民とは?
  • 空は繋がっていますよね? 地球規模で生きる人、という意味です。私の造語ではないのですが、子供が小学生だった頃、子供の通っていた小学校の校長先生が教育委員会でのお仕事もされているという方だったんです。その先生がサウジアラビア帰りに書かれた校内だよりに大変感銘を受けました。
    そこには子供にもわかる言葉で「僕は中東も全部周ったんだ。世界って広いんだよ」というようなことが書かれていたんですね。
    子供は今、海外赴任と外資系企業で働いております。昔夢に見ていた海外で家族で会うということも実現して来て、語学に強くないと……と思って、海外ドラマを楽しみつつ語学の勉強もしています。
  • お子さんたちはまさに地球市民でいらっしゃるんですね。
  • 自分の望んだ路線になった気がしています。キャリアも立たせながら子育てもちゃんとでき、勉強や趣味の時間を持つこともでき、充実しています。
    そして、子育てを経験したことで次世代を育成したい、次世代の医療人を育てたいという気持ちもより強くなっていました。
    そんな気持ちの高まりの中、2018年の春でしたが、日本薬科大学の松田教授から勧められたのが公益性の追求でした。
    2代目社長である上坂正美さんからも「NPO法人の事務局をウエサカ薬局本部に置いてみては?」とご提案いただき、上坂理社長もこの活動の理事に参画して下さることとなり、様々な想いを実現するために2018年8月、任意団体グランディールPhが立ち上がったのです。
    そして2019年5月に、NPO法人として登記されました。任意団体からNPOになったのです。

NPO法人グランディールPhとは?

  • NPO法人グランディールPhではどのようなご活動をされていらっしゃるんですか?
  • 月に1回、第三木曜日か土曜日の13時から15時まで、ウエサカ薬局本部にて勉強会を開催しています。どなたでも自由にご参加いただけます。会費は1,000円。資料代です。
    内容としましては、若手薬剤師が対応に悩むような症例の検討会となります。
    新人がベテラン薬剤師のアドバイスを受け、その後の対応についてもフィードバックしてもらいます。
    その他は一般用漢方薬の店頭販売の仕方についてや、中医の応用に関する勉強会、適宜話題性のあるものも扱い、薬膳の講義を外部でおこなうこともあります。
    また、会社の勉強会ではなかなかできない腎機能についての学習も重要です。これは日本腎臓病薬物療法学会に入っている石綿が説明してくれます。
  • 色々ある中でも、腎機能の学習にフォーカスしていらっしゃるのですね。
  • 今薬剤師に求められていることは一番に、透析患者さんを減らすことです。そのためには薬剤師が腎機能に明るいことが必須となります。ちなみに細野、石綿が看護師学校の薬理学の講義に行った際は、頂いた講義料をグランディールPhに入れました。
  • 講義の内容はいつも細野さんお一人で作っていらっしゃるのですか?
  • スタッフの一人が良きアレンジャーとなり、スライドとして仕上げてくれています。その方がいなければ講義が作れないと言っても過言ではありません。その方のこともそうですが、一人ひとりが損得を超えて「やりたい」という気持ちを持ちよってくれたおかげで今があります。感謝してもしつくせないです。
    私が忙しいときは、社長が経営者ならではの講義をおこなってくれることもあります。

NPO法人グランディール Ph の今後のビジョン

  • NPO法人グランディールPhの今後のビジョンを教えてください。
  • 法人を申請した際、書籍の出版を活動に挙げているのですが……。
    オーバーに言えば日本全体、現実的には地域の皆さんの健康観のパラダイムの転換を視野に入れています。
  • まずは地域から、ゆくゆくは全土に至るまで。健康への認識を変えたいといったことでしょうか?
  • そのようにしたいです。確か昭和34年あたりからかと思いますが、国民皆保険制度が始まりました。
    この制度はもともと医師に診てもらえない貧しい人が病気で苦しまなくて済むよう、助け合おうという精神からスタートしたかと思います。原点には「自分の健康は自分で守ろう」というコンセンサスがありました。その上でどうしても困った時の助け合いとして……という合意があったはずでした。
    しかし現在は、健康は病院で担保するといった感じを受けてならないのです。
    そして保険は使ったら得したというものではなく、保険料が上がったり、それに苦しめられたりと、結果次世代の方々の負担が増している状態です。
    ……と、いくら薬局薬剤師の私が話しても誰も聞いてはくれません。
    一方で、投薬中心の保険診療に疑問を感じる若い世代も出て来ました。
    くすりのウエサカのクライアントは働き盛りの方が中心でもある。
    そこで、「自分の健康は自分でクリエイトする」を応援できる薬剤師を育てたい! と思いました。
    グランディールPhの勉強会を土台に、学会発表や地域での健康講演も行っていき、そうした活動を、HPを通じ、あるいは冊子等をリリースすることで世に発信していくことも計画しています。
    健康サポート薬局を推進している政府の方針に沿ってもいますが、地域の皆さんが、ファーストタッチに自宅近くの薬局に気軽に相談に行ける……。このことを担える薬剤師を育てるということでしょうか。

    今調剤助手が注目を浴びていますが、私は2005年の頃すでに調剤助手の育成に取り組んでいました。10年以上かけて育てた助手たちが今活躍しています。グランディールPhのビジョンも、今は「そんなこと出来るの?」と思われることでしょう。しかし、先見性というのはこういうものなのかなと思います。

自己投資ができる人といっしょに働きたい

  • 細野さんのお考えになる理想の薬剤師像を教えてください。こういう薬剤師といっしょに働きたい! というような、ビジョンのようなものはありますか?
  • 頭がタフな人。フットワークの軽い人。自己投資できる人。それでいてふにゃふにゃしている人!
  • ふにゃふにゃ……?
  • ふにゃふにゃです。
    まず薬剤師ですからね。自分が健康である。これは何よりの説得力になります。また、自己投資は惜しまないでほしいです。私の頑張り方は正直、共感できる方のほうが少ないと思います。しかし仕事ですから、頑張らなくていいよとは言えないのです。
    それに薬剤師はお医者さんや介護士さん、患者さん、様々な職種の方との共同作業が多いです。そんなときに、ふにゃふにゃ生きている人でないと、ぶつかってしまうんです。
    外側は、こんにゃくやはんぺんのようにふにゃふにゃ。ぶつかられて外側がえぐれてしまうこともあるかもしれない。でも軸があれば軸がちゃんと残る。軸があれば大丈夫。おでんの串のように働いてみてほしい。
  • 私はウエサカ薬局様の社員さんのうちまだ一部の方としかお話できていないのですけど、みなさん共通して言えるのは、心は真っ赤に熱くて、頭はキンキンに冷えていて、それでいて腹でものを考えるぞ! という柔軟性もある。人間の理想的な在り方ですよね。そういうマインドをみなさん備えていて、この程よい「ふにゃふにゃ」感がウエサカ薬局さんのカラーなんだなあって思いました。
    自己投資というのも、世間では「自分に厳しい」とマイナスに捉える人も多いかもしれませんが、自分に学ばせてあげることも、自分に運動させてあげることも、自分をかわいがることですよね。
  • そう思います。
  • 自己愛がしっかりしている人。そういう意味で、自己投資がちゃんとできる方というのはいいですよね。

時代が求めているのはピッチャーもキャッチャーもできる薬剤師

  • これからの時代、薬剤師としてどのようなスキルが必要だと思いますか?
  • ピッチャーとキャッチャー、両方できるというのがいいと思います。
    薬剤師はお医者さんから処方箋というボールを受けてキャッチャーとしてサポートするのですけど、あるときは患者さんにヒアリングを行いながらピッチャーとしても活躍しなければなりません。
    昔はキャッチャー一辺倒でもよかったんですよ。しかしこれからはキャッチャーとピッチャーの時代に移行します。ピッチャーとキャッチャー両方になれる人が時代から求められ、生き残ると思います。
  • 医薬分業、6万店時代への突入、かかりつけ薬局の需要も高まりました。そういった時代の移り変わりの中で、キャッチャーだけをやっている訳にはいかない場面も出てきていて、両方できる人がいいという風になってきているのですね。
  • 両方できることが最強だと思います。
  • 個人的なお話なんですが、私は子供の頃から喉が弱いんです。以前のお仕事も声が出なくなって退職してしまってるんですけど、病院でもらうお薬や西洋医学だけでは治らなくて……。でもある時、ある小さな薬局で響声破笛丸という漢方を紹介していただいで、飲んでみたら声が出るようになってしまったんです。
  • それはまさに、ピッチャーとしての仕事ですね。
  • 「喉が弱いくせに、いつも首をむき出しにして!」と叱られたりもして(笑)。それからはマフラーとかもしっかり使うようになって。おかげさまで、めったに声を壊さなくなりました。
    ピッチャーとキャッチャーができる薬剤師さんのおかげで今働けているので、細野さんのおっしゃっていることがすごくわかりました。

次世代の薬剤師に伝えたいこと

  • 最後に、次世代の薬剤師に伝えたいことを教えてください。
  • まずは経済基盤です。自分の食扶持は自分で稼ぎましょう!
    そして女性は、家庭のことを諦めなくて良いと思います。
    子供を持つこともそうです。持てるならば、持った方がいいと私は思います。
    家庭が暗かった、親からしてほしいことを十分にしてもらえなかった。
    そんな人も、そんな人だからこそ、子供を持つことでもう一度自分を子供に戻す時間を得られるのではないでしょうか?
    足りないものを諦めず、自分の足で取りに行こうと思える。
    そんな方を、ウエサカ薬局はお待ちしています。素晴らしい出会いが待ってると信じています。
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